王生さんは大学時代に地球熱学の研究をされ、卒業後はその研究を地震予知に活かすプロジェクトに参加しました。その後、富山大学の研究室に入り、平成14年(2002)に新川地域で進められていた水博物館構想に関わったのが黒部に来るきっかけだったそうです。
「全然違う研究をしていて、水の専門家ではなかった」とのことですが、ここには黒部川に詳しい人たちのネットワークがあり、話を聞きに行ったり現地を見に行ったりして、知りたいことをすぐに教えてもらえる環境ができていたとのこと。
「黒部川扇状地研究所と日本黒部学会という2つの団体が何年も前から活動していて、ずっと研究を重ねていました。これは本当に珍しいことです。水博物館がスタートした時点ですでにしっかりとした学問的な基礎があったので、僕はそれをどう伝えるか、どう見せるかを考えるのが役目でした。そういう意味では、それまでやっていた研究とは違う面白さがあったと思います」
王生さんは「この地域の特徴は、他の地域と比べてみることによってより深く理解できる」と言われます。「例えば手取川や常願寺川と比べてどうか、同じなのか違うのかという視点で見ると、黒部川の特徴が捉えやすくなるし、自分の住んでいる地域の良さもわかる」とのこと。
王生さんは、水博物館スタッフ、黒部市吉田科学館の学芸員を経て、現在はジオパーク推進のお仕事をされとるがですけど、ご自分でこうなろう、と思っていたわけではないがだそう。「周りの人の勧めでやってみたら面白くなって、それでハマったという感じ。学生時代は地球規模の現象に興味があったけど、今は身近なところ、しかも科学だけではなくて歴史や地理、動植物などが複雑に絡んで、その多様さが面白いと思う」と言われます。ちなみに黒部川の一番の魅力は?と伺うと、「水が湧いているところ」とのお答え。海岸浸食で村が内陸のほうへ移動して井戸だけが残っている風景は、自然との関わりや人がかつてそこに暮らしていたという歴史が見えて、心が落ち着くがだそうです。
黒部川を知る、自分の住んでいる場所を知る、と言われても、なかなかきっかけがないがですけど、「難しく考える必要はないんですよ」とのこと。「普段目にする山の景色とか、飲んでいる水について、毎日の生活の中でちょっと考えてみる。例えば黒部川の上流には氷河があります。その氷河が解けて黒部川の一滴となり、その水が水道の蛇口から出てくるというのは、すごく贅沢なことだと思いませんか? この地域にはいいところがいっぱいあるので、それを知ることで自分の生活の豊かさを感じてもらえたらと思っています」
自然との関わりが薄れつつある現代、「自然と共存し、折り合いをつけるという意味では関わっていかなくてはいけない」と王生さんはおっしゃいます。「地球自体は今の環境が守られなくても何の影響もない。自然がなくなって困るのは人間であって、自分たちの未来の生活を守るために、少し我慢しましょう、ということ。そうやって関わることによって物事を多面的に考えられるようになるし、世界全体の一員である、という感覚にもなるんです」
身近な話題からもグローバルな視点が垣間見えた今回のお話。当たり前に思っていた景色を見る目も変わりそうながです。
(2019年8月27日)