筆に慣れる
舟田さんは、毎日、なるべく筆を持つようにしているそうです。「2~3日書かないと、感覚が鈍る。自分の思うような線が書けなくなってしまって、調子が戻るまでしばらく時間がかかります。」机に向かい、お手本を見て半紙に臨書しながら字の形を勉強したり、次の作品の構想を練ったりするのだとか。「書いていれば、上手になるものです。毎日ごはんを食べるときに箸を持つように、毎日筆を持ちなさいと教えられました。それくらい書きなさい、ということです。」
毎日書いているから、墨の状態の変化にも敏感。「寒いと墨ののびが悪いので、部屋を暖めてから書きます。20~25度くらいの気候のときが一番いい。のびがよいということは、筆が自然に開いて、いい線が出るということ。」逆に暑い時期には、墨に含まれるニカワが変質して、腐りやすいのだとか。「夏は、墨を作ったらすぐ書く。一晩置くとニオイがしたり、色が変わったりする。線がぼけて、いいものは書けません。」こんなところにも、作品づくりのご苦労があるがですね。
作家の魂
作品制作にあたっては、書く前にいろいろ考え、構想を練るがだそうです。構想がまとまって書き始めてからも、試行錯誤の連続。「書いている途中で、構想を練り直すこともあります。墨や筆も、イメージと合わないな、と思えば変える。今年の1月に賞をいただいた『達』では、仕上げるまでに50枚ぐらい書きました。」
言葉の意味と字体の雰囲気が合致するように、さらに気持ちをこめて表現するとなると、ひとつの作品を完成させるというのは本当に大変なことながです。舟田さん曰く、「年に15~16作品を仕上げますが、そのなかでも自分でよく書けたと思える作品は1つか2つぐらいですね。書いても書いても思うような作品にならないこともあるんです。」
出品するもの以外は、すべて反故(ほご)に。「作品を書こうとするときは、1枚1枚が真剣勝負。親にはもったいないと言われましたが、それだけ書いたから今があると思ったりもします。書かない人から見れば無駄に思えるかもしれないけれど、書かないと自分のものにはなりません。」
人の道を学ぶ
上手に字を書くポイントはなんですか?とお聞きしたところ、「文字を書くにはリズムが大切。呼吸に合わせて、速く書いたり遅く書いたりすると、作品も生きてくる。文章でも流れがあって、同じ調子で書くよりも緩急をつけて書くほうがいい。」とのお答え。なによりも、落ち着いて書くことが大事ですよ、とアドバイスされました。
主宰する「抱舟会」では十数人を指導し、書道教室も開く舟田さん。自分が教えているのは習字ではなく「書道」だ、と強調されます。「『習字』は字を習うということですが、『書道』は書く道を学ぶということ。書くことによって自分を磨き、人生を考えるということなんです。」
たしかに、華道にしろ茶道にしろ、『道』と名の付く芸術は礼儀や作法を身に付けるもの。書道は、単に筆を使って字を書くことではなく、自分の内面を見つめ、思いを表現することによって、豊かな人間性を育むということながですね。
現在、次なる作品に向けて準備中とのこと。先生のたゆまぬ努力の結晶でもある作品が楽しみながです!
(2012年5月21日)