明神さんの船は「貴新丸(たかしんまる)」。かつては漁に出ておられたそうですが、平成15年に釣り船に転向されました。船は、その当時で4,000万円ほどかかったそうで、船体だけで2,000万円、あとはエンジンやGPSなどの機械類です。釣りを楽しむ人のなかには、モーターボートで沖に出られる方もいらっしゃいますが、風や波の影響を考えると、やっぱり「貴新丸」のように大きな漁船が安定しています。能登半島沖の舳倉島(へぐらじま)や、新潟県の親不知(おやしらず)など、黒部を拠点にさまざまな漁場へ出かけます。
お客さんに沖での釣りを思う存分楽しんでもらおうと、漁場のようすを探るためのレーダーや魚群探知機(ギョタン)、ソナーも完備。「最初、造船所から来たときは、七尾から1時間半ぐらいで来た。車だったら3~4時間ぐらいかかったから、速いもんだな、と思いました。」と自慢の船を眺めながらうれしそうに話してくださいました。
遠くまで行くがですね~!装備もばっちりながです!
魚と自然が相手
「釣りは、港でもできる。でも、沖のほうが大きいものが釣れるし、陸で釣るのと違った楽しみがある。」海底の地形にも詳しく、魚が集まる場所も知り尽くしています。船を出すときは、夜明けごろから出港し、漁場をひとつずつ巡っていって、当たればその場でお昼ごろまで釣ります。ご自分でも何か釣られますか、との質問に、「船頭は、お客さんに釣ってもらうのが商売だから、自分では釣りません。理屈を知っているから、お客さんより釣れてしまう。苦情が来てしまいます。(笑)」
ずっと海を見つめてきたからこそ、感じる変化もあります。「昔と違って、季節の魚というのは無くなってきた気がします。」冬場以外は水温がほとんど変わらず、だいたいいつでも釣れる魚が多くなったとのこと。それでも、「冬の魚は、水が冷たくなって身が締まっておいしい。市場でも値段が上がる時期だしね。」
長年海と向き合ってきた、明神さんと一緒だから頼もしいのぅ。
わしにもたくさん釣れるかもしれぬ!
魚も賑やかなほうが好き
釣りの面白さはいろいろありますが、魚との駆け引きもそのひとつではないでしょうか。魚も生きもの、釣り上げるためにはその行動パターンを読むことが不可欠です。
もともと臆病な性格のお魚さんたちは、餌が目の前にぶら下がったからといって、すぐに飛びつくわけではありません。食欲旺盛になるお食事タイムもあるし、眠りもします。時間帯や漁場の地形、潮の流れなど、いろいろな要素を考え合わせるのは、まるで推理ゲームのよう。最終的には釣る人の「腕」なのでしょうが、明神さんの適切なアドバイスが釣果に結びつくのは間違いありません。
貴新丸では、釣りたい魚の種類によっては、餌をまいて魚を集めます。「エサで寄ってくる魚もいるし、寄ってこない魚もいる。歓楽街のネオンサインみたいなもので、賑やかなところに魚も集まってくるらしい。」だから、たくさん釣れるからといって一度に釣りあげてしまうと、群れも散ってしまう、とのこと。「いっぺんにみんな釣るのではなくて、かわるがわる釣ってもらえば、魚の群れも盛り上がったまま、長い時間釣ることができるがよ。」
食欲旺盛でお休みタイムもしっかりあるとは、まるで市のようじゃの!
間違いなく食べ物の夢を見とりますちゃ…。